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北摂里山フォーラム
都会近くにある、ひょうご北摂の里山。
その自然と風景を一つひとつの展示物に見立て、多くの人が気軽に訪れ、それぞれの目的に応じて利活用されることを通じ、里山の保全と地域の活性化を目的とする
「北摂里山博物館構想」の策定(平成二十三年九月)から十三年が経過しました。
この間、同構想を推進するために取り組まれてきた活動をふりかえるとともに、北摂里山の魅力をさまざまな角度から発信するために
「北摂里山フォーラム」を開催しました。
北摂里山フォーラム2024
「北摂里山博物館の13年をふりかえる」
兵庫県立大学名誉教授
パネリスト
冨永 美幸 氏
フォーラムレポート
講演の中から

岩槻邦男氏 基調講演から
題目「里山と日本人のこころ 13年後の北摂と地球」
里山を単に風景として捉えるのではなく、里山が日本人の心に大きく関わってきまたという「人と自然の共生」の概念は外国人にはなかなか理解してもらえません。日本では奥山は八百万の神々の住まいなのに対してヨーロッパでは悪魔が棲んでいる場所と思われてきていたことがそのギャップを生んでいます。日本では「悪魔=鬼」が住む場所は森ではなく島であったのです。(鬼ヶ島伝説)
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自然のコアな地域としての「奥山」、人が利用する「人里・里地」、その間のバッファーとしての「里山」。それは日本列島では歴史的に作られてきて非常に大切な概念です。それに対しヨーロッパ・アメリカなどの研究者は「里山をバッファーと見るのは間違っている。バッファーはコアの地域と一般のその地域との間を完全に切り離すものだ」という概念だと主張されます。なかなか理解に繋がりません。
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里山を表現するために日本では二次的自然という言葉がしばしば使われます。厳密に人手の加わらない所を自然というのではなく江戸時代までは自然(じねん)と呼んで、老子の自然(じねん)に始まって、その「おのずからなるもの」というのが自然(しぜん)だったのです。その意味で日本人も「自然」や「里山」を理解しているわけではなく「狭義の里山・広義の里山」両方について再度定義し直す必要があります。
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兼武政司氏 講演から
北摂里山愛す会設立10周年を迎えて
「北摂里山愛す会」は里山大学で学んだ有志が集まって2014年10月に結成されました。大学で学んだ成果をベースにフィールドワークを通じて交流することが目的でそれによって里山保全活動を活性化したいという思いです。一方で会員の事情を考慮しながら、ゆるく長くの交流研鑽としています。こども達の環境学習支援を進める核となることも目指しており、小学生の環境学習の一助になればと植物や昆虫などをテーマに「こども新聞」をこれまでに6回発行しています。
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会のシンボルマーク。山は輪伐によるパッチワークを表し、棚田がありハッチョウトンボが飛びます。ササユリとメダカもいます。
OB会の活動の幅は広く、北摂里山大学授業のサポートや保全団体の作業応援。また研修会も盛んに行っています。気比松田、三方五湖の松原の再生や湖の再生の取り組みを勉強しに訪れるなど遠征も行いました。講師を招いての公開講座も行ってきています。
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OB会の活動はブログで見ていただくことができます。会員が個々に所属する保全団体は北摂里山34の里山を中心に神戸、大阪或、能勢、豊能町と40箇所を超えます。団体に入られていない会員もOB会に所属することでいろいろな場所の保全活動に参加し、自分に合った団体を見つけることができます。OB会はその役目も大きいと思っています。
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服部保氏 講演から
北摂里山大学について
まず「北摂里山大学」は「北摂里山博物館構想」の中に位置付けられています。阪神北県民局管内にある里山の1つ1つを自然の展示物に見立て多くの人が訪れ、活用していく「地域まるごと博物館」という構想です。 構想の中には北摂里山大学以外にも「北摂里山魅力づくり応援事業」があります。「こども北摂里山探検隊」、「北摂里山サポータークラブ」といった多くの事業を行っています。
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「北摂里山魅力づくり応援事業」は北摂里山における保全活動やこどもたち等への体験学習の指導を行っている市民団体への活動資金の支援です。それが2012年より2024年まで続いてるというのは非常に重要な機能を果たし、かなりの団体が育てられたように思います。こども北摂里山探検隊は北摂里山をフィールドにした小中学生の環境体験学習。これも非常に大事で私も自然学校におりましたけれども、こどもたちにきちんと環境体験をさせるというのはすごく大事なことです。
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北摂里山大学は里山放置林管理、生物多様性、植生と歴史そして文化を学ぶ、レベルの高い市民講座です。卒業生は30あまりの活動団体で頑張っています。里山放置林をどうするのかという問題は全国的なものです。里山が担ってきた防災減災の役目、今まで里山で生きてきた生物がどんどん減っていく生物多様性の保全の問題をどうするか。里山大学が続いた背景には管内に伝統的な里山が存在していたこと(日本一の里山・黒川)、兵庫県が先進的に里山について取り組んで来たこと、それ以前に市民団体が里山保全に動き出していたことがあります。そして岩槻先生の存在、これも大きいのです。
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パネルディスカッションの中から

パネルディスカッション
北摂里山博物館がもたらしたもの
冒頭に北摂里山博物館運営協議会の大嶋事務局長から「北摂里山博物館構想」の柱となる4つの事業の説明。
・北摂里山大学
・北摂里山魅力づくり応援事業
・こども北摂里山探検隊
・北摂里山サポーターズクラブ
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ファシリテーター
上田萌子氏(大阪公立大学大学院農学研究科 准教授、北摂里山博物館構想検証委員会委員)
これまで北摂里山博物館では里山大学をはじめとする様々な事業が実施されてきており、今回のパネルディスカッションではこれら事業にそれぞれの立場で関わってこられた4名の方にパネリストとしてご参加いただきました。里山大学は全国的にみても魅力ある講座であることが河元さんの研究やパネリストの方々のご意見、現役生のお話からもわかります。修了後の受け皿にOB会があり、30もある保全団体があり、サポーターズクラブがあるということも素晴らしいことです。北摂地域にはこども達の環境学習に適した貴重な里山の自然が維持されているのです。講師や指導者を輩出する里大、OB会、サポーターズクラブの存在とその役割は大きいものがあります。そしてそれを後押しする助成金の制度は「渓のサクラを守る会」の西澤さんの言葉通り、里山を整備するボランティアにとって大きな支えになっていることも。
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発表・パネリスト
河元明里氏(大阪公立大学農学部緑地環境科学科4年、北摂里山大学13期生)
私が現在取り組んでいる「里山保全に関連したボランティア人材育成講座修了後の活動展開に関する研究」を発表させていただきます。里山林はかつて薪炭林や農業林として人が手入れを続けてきた資源が利用されなくなった現在、生物多様性の保全、市民のレクリエーションの場、環境教育の場としての観点から重要視されています。里山林保全には市民や企業、行政など様々な主体が取り組む必要があり、市民ボランティアの方の働きが担い手として非常に期待されていますが人材の不足や高齢化が全国的な課題となっています。人材育成講座は全国各地で開催されているものの里山林を中心にした講座の実施状況について、また講座の実施が受講生の活動にどのように繋がっているかということは明らかになっていません。そこで本研究では里山林保全のためのボランティア人材育成講座の全国での実施状況について把握し、受講後の活動が活発かつ発展的である講座の特徴、内容を明らかにすることで効果的な講座プログラムの検討につなげることを目的としました。
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パネリスト
西澤孟治氏(渓のサクラを守る会代表)
私たちが主として守っているエドヒガンは手助けしてやれば300年、500年、5000年近くも生きてくれるかもしれません。私たちの渓には今300本のエドヒガンがあります。これを守っていかなければいけないなと思っています。人材の育成は本当に非常に大事なことだと思います。県の森林ボランティア協会主催のリーダー研修に女性会員が参加しました。小学校3年生の環境体験学習ではこどもたちに五感を使って私たちの渓の自然を感じてもらっています。中学校2年生はトライアルウィーク活動で来てもらっています。それが縁で会員になられる保護者の方も多いです。手弁当でのボランティア活動において県の助成金は大変ありがたく感謝しています。県には学術的な面も含め物心両面でぜひずっと支え続けていただきたいです。
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パネリスト
前島紳作氏(北摂里山博物館構想検証委員会委員、元神戸新聞社阪神・北摂総局長)
私は記者ですので兵庫県のいろいろな地域を回ってきました。その中で阪神北県民局の市町を越えた取り組みは非常にユニークでまた実を結んでいると感じます。次世代を繋ぐという意味で小学校の体験学習はこどもが里山で体験したことを親に話し、そこから親が活動に参加されるきっかけになるよい例だと思います。シニアは皆さんが思うほど暇ではなく元気なんですが、退職してからそれまで親しかった人と付き合うだけでなく、何か地域に貢献できないかと思っています。里山の保全という目的を持ち、しかも緩やかに良い友達である保全団体の関係はすごくうらやましく思います。団体助成金の審査員も努めさせていただいた時もそれを実感するものがありました。
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パネリスト
冨永美幸氏(大阪みどりのトラスト協会会員、北摂里山大学 12期・13 期生)
「大阪みどりのトラスト協会」から紹介された里山大学OB会主催の講演に参加したのが縁で里大に入りました。2期連続して受講したのは私の心の支えになっていたからです。河元さんの発表を聞いて私の選択は正しかったと確信しました。日本一の里山の黒川を訪れたり、ブナの原生林、夏の湿原、炭窯見学、植生管理実習など、フィールドの講義だけでなく座学の時間も楽しいです。世界の原植生から始まり、万葉集や百人一首まで里山を通じてたくさんのことを学べます。そこからの興味で「チガヤ文化研究会」に入ったくらいです。普段の日常の生活があるので活動への参加は限りがあるのですが、いつも私の心を救ってくれている植物にどこかで関わっていきたいと思ってます。
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